アジアインフラ投資銀行(AIIB)は、「人民元を国際通貨にする布石」


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下記ブログの赤文字の部分。私とAIIBへの見解がかなり近かったので、ご紹介させてもらいます。

日本がAIIBに参加しない理由は、下記動画をご覧ください


 中国が計画するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に韓国が参加を決めた。米国主導の国際秩序を中国が揺さぶる中、日本はどう動くべきか――。真田幸光・愛知淑徳大学教授に聞いた(司会は坂巻正伸・日経ビジネス副編集長)。

雪崩打った米の同盟国

3月26日、韓国政府がAIIB参加を正式に発表しました。中国は直ちに歓迎の意を表しました。29日現在、40カ国以上が参加を決めています。

真田:中国は「してやったり」と考えているでしょう。2014年10月に北京で設立の覚書に調印した時、参加を表明した21カ国の中に米国の主要な同盟国はありませんでした。米国がAIIBを警戒していたからです。

 ただ今年3月12日に英国が手を挙げると、独、仏、イタリアといった欧州の同盟国も相次ぎ参加を宣言。そして「締め切り」の3月末を目前に、防衛を大きく米国に依存する韓国までが加わったのです。

英国のおかげで滑り込みセーフ

鈴置:2014年5月に中国から勧誘された時、韓国は何の疑いもなく参加するつもりでした。経済面では米国以上に中国との関係が深くなったからです。しかし直後の同年6月に米国が強く制止したので、米中間で板挟みに陥っていました。

 韓国紙によると米国は「友邦としての信認度に影響する」とまで韓国を脅したようです(「ルビコン河で溺れる韓国」参照)。

 ただ、米国の欧州の主要同盟国が雪崩を打ってAIIBになびいたので「もう、参加しても米国から睨まれない」と韓国は判断したのです。

 韓国政府の発表文では「AIIB運営に関する不透明性への疑念が薄れたから」としています(聯合ニュース・日本語版=3月26日=「韓国政府 中国主導投資銀行への参加決定」参照)。が、それは言い訳に過ぎません。

予想もしなかった英国の参加のおかげで、韓国は米国の怒りを買わずにAIIBに滑り込めた、というわけですね。

「ADB潰し」どころか……

鈴置:韓国各紙の記事からは「思いがけない方向から助け舟が来た!」との、ほっとした空気が伝わってきます。米中どちらの言うことを聞くべきか判断がつかず、韓国政府も先送りしてきましたから。

 さて、真田先生に質問です。そもそもAIIBの本当の狙いは何なのでしょうか。中国はアジアのインフラ開発に資金を提供するのが目的と説明しています。

 でも本音は、米国と日本が主導するアジア開発銀行(ADB)を抑えて、金融面からもアジアを支配することにあると疑う向きが多いのです。

真田:中国の狙いは「ADB潰し」どころか、もっと大きいと思います。私は既存の、米国を中軸とする国際金融体制への挑戦と見ます。

 戦後の国際金融秩序を司ってきたのは3つの国際機関です。復興、開発を担当してきた世界銀行グループ、為替の監督管理、ルール作りを担当する国際通貨基金(IMF)、そして貿易と投資の管理監督を担当する世界貿易機関(WTO=旧GATT)です。

 AIIBはこの3つと当たってくる――競合しそうなのです。インフラ開発も消費も伸びる余地が大きいアジアで、まず自身が主軸となって投融資する形を作る。

 それをテコに自らに都合のいい、為替なり貿易・投資を仕切る国際秩序を作っていく――というのが中国の大戦略と思います。ADBは世銀グループの地域金融機関に過ぎません。

 もちろん米国が主導する秩序はすぐには崩れません。が、それを揺るがす可能性を秘めた、新たな組織が生まれようとしているのです。既存の体制を守る側としては、懸念を持つのが当然です。

ドル支配体制を崩す

人民元の国際化が狙い、という人もいます。

真田:もちろん人民元の国際化は、米国に対する挑戦の一部です。

鈴置:「AIIBはドル建てで出資し、融資すると中国は言っている。人民元の国際化にはつながらない」と主張する人もいます。

真田:それは国際金融の実務を知らない人の見方です。ドル建てにするかではなく、ドルの決済機能――Reimbursementと呼びますが、――をどこに置くかがポイントなのです。

 もし中国が決済機能をドルの発券国である米国に置くのなら、人民元のデビューは当面はないと見ていいでしょう。一方、中国に置くのなら、人民元を国際通貨にする布石だな、と読むべきです。

 決済機能を米国に置くということは、日常の取引をすべて米国にモニタリングされる――情報を吸い上げられることを覚悟せねばなりません。さらに、いざという時に米国による資金凍結のリスクを冒すことを意味します。

 反対に中国に決済機能を置いておけば、米国から覗かれないし、資本を“人質”にとられないで済む。中国はAIIBの決済通貨を人民元に切り替えるチャンスを探っている、と考えるべきでしょう。

米国も中国に踏み絵

真田:貿易など実態経済では、人民元が日ごとに使われるようになっています。AIIBの借り手からも「ドルより使い勝手がいい人民元で貸してくれ」と言われる日が来るかもしれません。となれば当然、人民元で預かります――ということになる。

 今は「ドル建てで調達、融資をする」なんて言っても、いつまでもそうとは限らないのです。

鈴置:中国の言うことをそのまま信じるのはあまりにお人好し、ということですね。では米国は、中国に対し「決済機能を米国に置け」と要求するのでしょうか。

真田:そう思います。もちろん裏で、でしょうけれど。この踏み絵を突きつけて中国の真意を探ると思います。

 中国もまだ米国が怖いのかもしれない。それなら米国の要求を受け入れるでしょう。この辺はどちらに転ぶのか、分かりません。

英国の参加は驚き

話を少し戻します。大方の予想に反し、英国はなぜ参加を決めたのでしょうか。

真田:英国の参加は私にとっても驚きでした。先ほど申し上げた、戦後の国際金融秩序の仕組み――ブレトン・ウッズ(Bretton Woods)体制――は米英が作り、協力して維持してきたからです。

 英国の参加の理由は2つ考えられます。まず、中国の実態経済の拡大に裏打ちされたAIIBはもう、止められない――と判断して「それなら中に入ってチェックしよう」「英国と同様に中国の意図を疑う国と一緒に、必要なら内側からブレーキをかけよう」と考えたと思われます。

 もう1つは、国際金融の分野で米英両国の間に溝ができていて、英国が米国の身勝手な行動に警告を発した、との分析です。

 世界中の民間銀行がドルの決済機能を米国に集中させています。具体的には米銀の口座にドルを預け、他行との取引はこれを通じて行うのです。この方法が一番効率的だからです。

 しかしこのドルは、いざという時は米国から人質に使われる可能性があります。米国政府から国内法を使って口座を凍結されたら終わりなのです。どんな金融機関も、ほぼ間違いなく倒産します。

「横暴な米国」への不満

鈴置:米国がそんな無茶をするでしょうか。

真田:もちろん理由なしにはしません。でも現実にはこの人質が結構、モノをいうのです。

 例えば最近、米政府が「マネーロンダリングのチェックが不十分だった」として、欧州や日本の銀行に巨額の罰金を払わせています。これだって人質があってこそ、皆がいやいやでも支払うのです。

 もちろん、英国をはじめとする欧州各国からは「米国の横暴」への批判が高まっていました。現実には完全にマネーロンダリングを防ぐのは難しいからです。

 国際政治の面でもそう言われますが、国際金融でも米欧間に亀裂が広がりつつあると私は見ています。

その2つの理由、米国との協調と米国に対する牽制、全く方向が反対ですね。

日本の叩頭を待つ中国

真田:ええ、でも現実はこの2つが相まったのではないかと思います。いずれにせよ、英国の決断は米国にとっては寝耳に水だったようです。米国は慌てています。

 3月22日、シーツ(Nathan Sheets)米財務次官が「既存の国際機関とAIIBの協調融資」に言及しました。中国との妥協策を模索し始めた、ということでしょう。

 日本はさらに大慌てです。AIIBに否定的だった米国についていってハシゴを外されかけているからです。麻生太郎財務相が3月20日に「(条件付きで)協議の可能性はある」と言ったのは、その動揺を映しています。

 中国は韓国には参加を積極的に呼び掛けてきました。半面、日本に対しては大声で誘ったりしませんでした。理由は2つと思います。まずは、呼び掛けてもどうせ参加しないだろう、との判断。

 もう1つは日本が困って入りたい、と頼んでくるのを待つ作戦です。その時、中国は「入りたいなら頭を下げて来い」と言えるのです。

 すると、日本国内に「頼りない米国一辺倒の外交政策でいいのか」との声を起こせるわけです。

鈴置:反・安倍勢力からは、もうそうした声が出始めています。

中印に次ぐ3位目指す

もともと参加したかった韓国は大喜びのようですね。

鈴置:正式に参加表明する前から、韓国の政府関係者は「中国、インドに次ぐ出資比率を目指す」とメディアに漏らしています。AIIB内での重みを増す作戦です(韓国経済新聞・日本語版=3月24日=「韓国、AIIB持分6%得てこそ実益確保」参照)。

真田:中国は陸路と海路で欧州と連結する「一帯一路」構想を打ち出しています。その資金を提供するのもAIIBの大きな役目です。

 海外建設が得意な韓国は、AIIB加盟で「一帯一路」プロジェクトの受注につなげたいのでしょう。プロジェクトの情報もいち早くとれるようになりますし、AIIBが融資するのなら工事代金も取りはぐれの危険性が大きく低下します。

韓国はAIIB参加に加え、米中双方からもう1つ「踏み絵」を突きつけられていました。終末高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)です。これにはどう影響しますか(「米中星取表」参照)。WS002116

鈴置:「AIIBでは中国の言うことを聞くことになりそうだから、THAADは米国の言うことを聞こう」――との声が韓国では高まっていました(「『こちらに来るなら3月中』と韓国を急かす中国」参照)。

 「経済は中国頼み、防衛は米国頼み」というわけです。韓国が日本とのスワップを続けなかったのも、まさにその意図からでした(「『人民元圏で生きる決意』を固めた韓国」参照)

「もっと中国側に来ても大丈夫」

鈴置:でも「AIIBで米国が中国に完敗した」という認識が深まると「経済も防衛も中国」になりかねないと思います。実際、AIIBに参加を宣言しても、韓国は米国から怒られなかった。

 「米国はもう怖くない」との空気がソウルに広がれば、THAADを在韓米軍に配備したいとの米国の希望を、韓国はもっと露骨に無視するようになるかもしれません。

 つまり、防衛も「弱い米国」から「強い中国」に鞍替えするわけです。地政学的に脆弱な場所にある韓国という国は、世界の覇権交代に極めて敏感なのです。

 そんな韓国人の心情を見透かしたように、中国が揺さぶりをかけています。3月27日の環球時報・社説「韓国はバランスをとって良い決断を下した」(中国語)は以下のように主張しました。

  • 英国から韓国までが相次いで米国の主張する国際金融秩序から離れるということは、米国と同盟国の間で義務の範囲が再検討されることを意味する。

 要は「米国の同盟体制にひびを入れることに成功した」という中国の勝利宣言です。そして「もっと中国側に来ても問題はない」と韓国を誘っているわけです。

 韓国のメディアもこの「離米」を呼び掛ける社説を引用しています。朝鮮日報の「中国『韓国は難しいバランスを選択』」(韓国語、3月28日)がそれです。これを読んで心を動かした韓国人もいたことでしょう。

トルコが中国製MD導入

真田:同感です。下手すると、AIIBで米国は日本を道連れに孤立します。それ以前から米国の指導力は落ちていました。例えば、ロシアによるクリミア併合でも弱みを見せた。

 それなのに米国は依然、ロシアにも中国にも強気で対して、AIIBで返り撃ちにあった。欧州との間も政治、金融両面で溝ができている。米国の弱さが明らかになりつつある今、韓国は立ち位置を変える可能性があります。

 こうした情勢の中で3月19日、中国メディアが「トルコが中国のミサイル防衛(MD)システムを購入する」と報じたのが、気になっています。

 トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であり、米国の中東における戦略拠点です。そのトルコが中国のMDを導入する可能性が出てきたのです。韓国が「そのうちに中国は我が国にもMDを売り込みに来る」と考えても不思議ではありません。

鈴置:仮の話ですが、そうなったら韓国はTHAADでの決断を避けるための材料に利用できますね。

 中国製MDと米国のTHAADが、韓国という土俵の上でがっぷり四つになる。するとTHAAD配備問題も米中間の交渉のテーマになるから、自分は板挟みから逃れられる――と多くの韓国人が考えるでしょう。

 韓国には「THAADの配備問題で、米中双方から責め立てられる我々は被害者だ」との意識が根強い。「米中で話し合って決めてほしい」との声がもともとあるのです(「中国の掌の上で踊り出した韓国」参照)。

奇手で「離米従中」を加速

中国と交渉する前に、米国は韓国に対し疑いを持ちませんか? 裏で中韓が結託しているように見えますから。

鈴置:第3者はそう思います。ただ、韓国は追い詰められています。AIIBの問題は英国のおかげでなんとか切り抜けられた。が、THAADではそうもいかない。わらにもすがる心境です。

 米国から疑われようが中国から苛められなければいい、と韓国人は思うでしょう。「習近平主席がTHAAD配備に反対しているのだぞ」と韓国は言い渡されているのです。

 配備をのんだら、中国から何をされるか分かりません。米国が中国と直接取引してくれれば、中国の怒りは避けることができます。

 そのうちに反米色の濃い左派は「中国に頼もう」と言い出すでしょう。普通の人もそれに乗るかもしれない。

 北朝鮮の核ミサイルを防げるなら、米国製のTHAADでも中国製MDでも同じ、との考え方だってできるからです。そうすれば、経済と防衛の腸ねん転を解消してすっきりできるわけですし。

 要は北京が「中国製MDの韓国配備」という奇手を繰り出せば、AIIBに続きTHAADの問題でも、韓国の「離米従中」を一気に加速させ得るのです。

「混乱がチャンス」の韓国

韓国は大変ですね。

真田:ええ。でも、日本人が考えるほどではないかもしれません。日本人は「安定」が好きで「混乱」を嫌います。でも、韓国にとっては混乱こそチャンスなのです。

 米中の力関係がシーソーのように揺れれば、その間隙を縫って生存空間を増せる、と韓国人は思うのです。韓国の指導層の中には「もっと荒れろ!」と願っている向きもあると思います。

混乱が苦手な日本人は、この混乱をどう生き抜けばいいのでしょうか。

真田:以下、唐突に聞こえるでしょうが私の持論です。英国との関係を十二分に深めるのです。英国を通じて欧州との連携も強化できます。

 英国は地力のある国です。日本が及びもつかない情報力と金融力を持っています。AIIBに関してもゲームを動かしました。日本人は英国の力を過小評価しています。

 ありがたいことに英国は王様のいる国で、皇室をいだく日本には親近感を持ってくれている。「新・日英同盟」を組むのです。

「新・日英同盟」のススメ

鈴置:「新・日英同盟」を結ぼう、とは真田先生が『世界の富の99%はハプスブルク家と英国王室が握っている』などで展開されてこられた主張ですね。

真田:米国一辺倒が危ない、といっても日本は中国とは組めない。接近するのさえ難しい。中国の日本敵視策は容易に変わらないからです。そこが韓国とは大きく異なります。

 でも日本だって、今始まった世界秩序の混乱を、変化と飛躍のチャンスと考えればいいのです。いや、そう考えないと生き残っていけないのです。

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アジアインフラ投資銀行(AIIB)は、「人民元を国際通貨にする布石」」への2件のフィードバック

  1. もよこ

    安倍ちゃん、外交下手にも限度がありますよ。
    米プチ従属国のイギリスだって、中に入ってチェックしたりブレーキをかけようと「参加する」という結論に至ったんですよね。韓国も実利を得る公算があって参加を決めた。

    もちろん、日本にとって不利益になると判断しての不参加だとしたら、それはそれで「外交」なのでしょうが、どうやら最初から「不参加」という結論ありきみたいですね。

    これで米国の舎弟頭にでもなれたと喜んでいるのかもしれません。まぁ、アメリカの傍受を喜んで受け入れてるくらいですから、「外交」なんてものじゃないですね。すべてアメリカに従っていればそれでOK。簡単です。

    それにしても「中国主導なんてダメダメ、安倍ちゃんグッジョブ」などと言ってる人が結構いるのに驚きます。

  2. nishiizu

    すでに破綻してるアメリカドルを、基軸通貨として流し続けること
    こそが危険。
    ユダ菌ダメリカ政府が日本の財産を搾取して誤魔化してるだけで、
    アメリカ国民は日本よりも貧しくなっている。
    生活できないから仕方なく兵役に着く。
    この状況のアメリカを何故恐れる?
    むしろ傀儡を追い出し、アメリカもAIIBに入って再生するべき。
    基軸通貨はなんでもいいです。安定していれば。
    もちろん、日本も同様です。

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